分析は手段、ビジネス価値の創出が目的
JALグループでは、マイレージ会員データをはじめとする大量かつ多岐にわたるデータを蓄積してきましたが、これらのビッグデータを横断的に活用する組織は存在しませんでした。そこで、コロナ禍を機に顧客データの本格活用に乗り出すことになり、設立されたのが顧客データ戦略室です。
同室には「企画」「CX(顧客体験価値)向上」「事業推進」の3つのグループがあり、データ分析および活用に向けた中長期戦略の策定、日々のサービス改善、マーケティング支援、社内データサイエンティスト育成など、多岐にわたる業務を担当しています。
JALでは、データ分析を手段として捉えており、センターオブエクセレンス(CoE)的な専門家集団ではなく、事業部門と密接に連携しながらビジネス価値を生み出すことを重視しています。CX向上の観点では、さまざまな事業のサービス接点において、顧客がより心地よいと感じ、親近感をもってもらうためのドライバーとして、データ分析および活用を推進しています。
顧客データは「お客さまからいただいた手がかり」
JALは、顧客データを単なる数字の集合体として捉えていません。
具体的には、前述のマイレージ会員データのほか、搭乗予約やフライトデータなど、航空および非航空領域の多様なデータを保有しており、そこからさまざまなインサイト(未充足なニーズ)を導き出すことで、より深い顧客理解を実現しようとしています。
顧客データ戦略室では、顧客データを活用するために各事業部門と連携しながら、「分析施策(データ分析による有効な施策の実行支援)」「仕組みづくり(事業ニーズを満たす分析基盤の構築)」「人財体制(社内における分析人財の育成)」の3つの取り組みに注力しており、これらを一元的に支えるプラットフォームとしてDataikuを導入しています。
Dataikuによる自動化と効率化で意思決定の質の向上を目指す
顧客データ戦略室では、さまざまな施策の成果を定量的に評価するため、顧客の搭乗回数の増加や、航空事業以外のサービス(JALカード、マイレージバンク関連事業など)の利用増加など、多角的なデータ分析の指針となるKPI(重要業績評価指標)を設定しています。
その際、施策によって課題が改善したのか、それとも社会情勢の変化によるものなのか、ビジネス側のドメイン知識のみでは正しい評価ができない場面もあり、施策による介入効果までしっかり読み解いたうえで意思決定の質を高めることが重要となります。
また、データ分析から施策実行に至る業務の工数削減も、注視しているKPIの1つです。
実際に、ダイレクトメール送信時のリスト作成をDataikuによって自動化し、手作業時のミスを100%防ぐなど、精度向上と業務効率化の両面で成果があらわれています。
ビジュアルレシピとAI連携でデータ分析および活用の民主化を後押し
JALがDataikuを全社プラットフォームとして活用している理由は、プログラミングの専門スキルを持たないユーザーでも、ノーコード/ローコードでのデータ分析が可能となるメリットにあります。特定のデータを入力、加工、整形するステップをあらかじめ定義したビジュアルレシピを利用すれば、GUI上で定型的なデータ集計などを誰でも簡単に実行でき、データ分析と活用の民主化を後押ししています。また、誰がどの工程を担当したのかも可視化でき、再現性や共有性の高いデータ分析を実現しています。
そして特筆すべきが、JALグループにおける生成AI活用環境「JAL-AI」とDataikuの連携強化です。LLM(大規模言語モデル)をベースに開発したチャットボット型のライト分析アプリでは、例えば「過去3年以内に羽田-新千歳路線に搭乗し、直近1年以内に搭乗していないJALマイレージバンク会員は何名ですか?」と自然言語で質問すると、Dataikuが裏側でデータベースに接続し、リアルタイムにデータを集計して回答します。これによりビジネス担当者でも簡易分析を行うことができ、意思決定のスピードが向上。定型的な分析の自動化で分析チームの負担も軽減され、全社的なデータ活用力が底上げされています。
ほかにもDataikuにビルトインされた生成AI機能(LLMレシピ)を活用し、アンケート結果やSNS投稿などの非構造化データを構造化して統合分析することで、顧客理解を促進するダッシュボードも開発されています。
こうした取り組みの結果、Dataikuを本格的に活用しているユーザーは5事業部に広がり、AIと連携した各アプリやBIツールなどを通じて間接的にデータ分析を行っているユーザーまで含めると、14事業部へと拡大しています。
横展開と深化の両輪でデータドリブンカンパニーの実現へ
今後に向けてJALでは、DataikuとAIの連携をさらに強化していく意向です。DataikuをAIプラットフォームとして活用し、社内データとAIエージェントをバックエンドで連携させることで、データ分析の専門家に依存していたインサイト抽出をある程度AIに任せられるようにし、事業部門のデータ活用におけるPDCAサイクルの短縮を図ります。
CX向上の観点からも、より多角的なデータ分析を模索しています。これまでは顕在化した顧客の不満点を解消することに焦点を当てていましたが、今後は非顕在ニーズや価値観や嗜好なども考慮した分析を実施し、一人一人の顧客に対してより最適かつ快適なサービスを提供できるコミュニケーションの実現を目指しています。
さらに顧客データ戦略室では、「横展開」と「深化」という2軸での展開を掲げています。JALグループの最大の特徴は、パイロット、グランドスタッフ、整備士など、各分野のプロフェッショナルがワンチームとなって協働し、航空機を運航している点にあります。これらの多様な専門性を有する人財に対して、データという新たな武器を提供することにより、グループ全体の事業変革を進展させていくことが横展開の目的です。一方の深化については、顧客データ戦略室自身が前面に立って各事業のあり方を深掘りし、解決すべき課題を設定する側に回ることを目指しています。